ギャッベは、イラン南西部のザグロス山脈周辺で暮らすカシュガイ族などの遊牧民が、家族のために織ってきた毛足の長い絨毯です。羊の毛を刈るところから糸を紡ぎ、草木で染め、手で結びながら織り上げるまで、すべての工程を自分たちの手で行います。模様にはその日の景色や家族への思いが込められ、同じものは二つとありません。ギャッベはもともと寒暖差の激しい自然の中で、床に敷いて暮らしを守るための必需品でした。
親から子へ受け継がれる技
ギャッベの織り方は、母から娘へと日常の中で受け継がれます。嫁入り前に自分の手で織ったギャッベを持たせる風習もあり、良いギャッベを織れる娘は家事や暮らしの技を身につけた証とされてきました。この織りの技術や感性は、教科書ではなく生活そのものの中で育まれます。だからこそ、一本一本の糸に織り手の人生や家族の物語が宿ります。
完成までにかかる膨大な時間
ギャッベ作りは、時間との静かな対話です。小さなサイズでも数週間、大きなものでは数か月、場合によっては半年以上かかることもあります。1平方メートルを織るのに数か月というのは珍しくありません。毎日少しずつ結びを重ね、間違えばほどいてやり直す。そんな根気のいる作業の積み重ねが、一枚のギャッベを形にしていきます。
手織りならではの価値
機械織りのラグは短期間で大量に作れますが、手織りのギャッベは一度に数枚しか生まれません。生産効率よりも、手の感覚や感性を優先して織られるため、どうしても数が限られます。価格が高いのは、この「時間と手間」と「唯一無二の物語」が詰まっているからです。ギャッベの値段には、素材や技術だけでなく、織り手が過ごした季節や思い出まで含まれているのです。