キリムとは?
手織り絨毯との違いから織り方・お手入れまで
毛足のない平織りが生む、軽やかな一枚。
キリムも手織り絨毯の一種 ― そう捉えると、ぐっと分かりやすくなります
1. キリムとは ― 毛足のない平織りの手織り絨毯
キリムとは、経糸(たていと)に緯糸(よこいと)をくぐらせて織り上げる、毛足(パイル)のない平織りの手織り絨毯です。日本では「薄手のラグ」として親しまれていますが、本来は床敷きだけでなく、壁掛けや袋物など、遊牧の暮らしを支える道具として発達してきた織物です。
最初に押さえておきたいのは、キリムも手織り絨毯の一種だということです。手織り絨毯には、毛足のあるパイル絨毯と、毛足を作らない平織りがあり、キリムは平織りの代表格です。産地もさまざまで、イランで織られたキリムはペルシャのキリム、アフガニスタンで織られたキリムはアフガニスタンのキリムとなります。「キリムか、手織り絨毯か」という二者択一ではなく、手織り絨毯という大きな括りの中でキリムを眺めると、絨毯の世界はぐっと整理されて見えてきます。
| 項目 | キリムの基本 |
|---|---|
| 構造 | 毛足を作らない平織り。緯糸で面と文様を描く綴織(つづれおり)が代表的です |
| 表面 | 毛足がなく、平らで軽やか。折り畳んで持ち運べる身軽さも特徴です |
| 主な素材 | 羊毛が中心。経糸に綿を使うものや、山羊毛・絹を交えた例もあります |
| 代表的な産地 | イラン(ペルシャ)、アフガニスタン、アナトリア(トルコ)、コーカサス、中央アジアなど |
| 用途 | 床敷き、壁掛け、袋物、間仕切りなど、暮らしの道具全般 |
2. キリムはどのように織られるのか
経糸と緯糸だけで文様を描く
毛足のあるパイル絨毯は、経糸に色糸を一結びずつ結び付け、その先端を毛足として立たせることで文様を作ります。一方キリムは、張った経糸に色糸の緯糸を上下交互にくぐらせ、しっかり打ち込みながら、面そのもので文様を描いていきます。緯糸が経糸をほぼ覆い隠すこの織り方は、綴織(タペストリー織り)と呼ばれます。
薄さ、軽やかさ、折り畳んで持ち運べる身軽さは、この構造から生まれます。糸の太さや打ち込みの密度、素材によって、風合いは一枚ごとに異なります。
文様の境目にできる「スリット」
色の異なる緯糸を、それぞれの色面の端で折り返していくと、色と色の境界に短い縦の隙間ができます。これが「スリット織り」と呼ばれる技法で、キリムらしい輪郭のくっきりした幾何学文様は、この構造から生まれます。
文様の境目にある短く規則的な隙間は、破れではなく、織りの構造そのものです。織り手は隙間が長くなりすぎないよう、段差のある線や小さな色面を巧みに組み合わせて文様を設計します。また、色と色の糸を絡めてつなぎ、隙間を作らずに織り上げる技法もあります。
3. キリムとパイル絨毯・ギャッベの違い
同じ手織り絨毯でも、毛足のあるパイル絨毯とキリムでは、構造も表情も大きく異なります。並べて比べてみましょう。
| 比較点 | キリム | 手結びのパイル絨毯 |
|---|---|---|
| 表面 | 毛足がなく、平ら | 結び目から伸びる毛足がある |
| 文様の作り方 | 色の異なる緯糸で面を描く | 色糸の結び目を点描のように並べる |
| 手触り | さらりとして軽やか | ふっくらと柔らか |
| 裏面 | 表とよく似た文様が現れる | 結び目の粒が文様を映す |
ギャッベは、イラン南西部の遊牧文化から生まれた、毛足のある手結び絨毯です。キリムと同じく羊毛をたっぷり使いますが、違いの中心は素材ではなく構造にあります。同じ羊毛から出発しても、毛足を立たせるか、面で織り上げるかで、まったく異なる表情の絨毯になるのです。
4. 産地と素材 ― 地域ごとに変わる表情
キリムは、一つの国だけの織物ではありません。イランやアフガニスタンからアナトリア(トルコ)、コーカサス、中央アジアにかけての広い地域で、それぞれの土地の羊毛と色彩感覚を映した平織りの文化が育まれてきました。
イランの中だけでも、表情は実にさまざまです。シーラーズ周辺のカシュガイ系の織り手による、菱形や星を大胆に並べた幾何学文様。サナンダジュ周辺の、細い羊毛で緻密に織り込まれた小さな反復文様。同じ「キリム」という言葉の中に、驚くほど多彩な個性が同居しています。同じ地域でも時代や織り手によって意匠は変わるため、産地の名前は「傾向」としてゆるやかに眺めるのがちょうどよい距離感です。
アフガニスタンのキリム ― 深い色と力強い文様
アフガニスタンもまた、豊かなキリム文化を持つ土地です。深みのある赤や茶を基調に、力強い幾何学文様を織り込んだものが多く、日々の暮らしで気兼ねなく使える親しみやすさも魅力です。SATHI RUGSでも、アフガニスタンのキリムを数多くご紹介しています。
羊毛が主役、植物染料が彩りの土台
文様を描く緯糸には、弾力と発色の良い羊毛が多く使われます。土台となる経糸には羊毛のほか綿が使われることもあり、作品によっては山羊毛や絹を交えた例もあります。
茜や藍といった植物染料が長い歳月をかけて育ててきた色彩感覚は、今もキリムの配色の土台にあります。使い込むほどに色がなじみ、深みを増していくのも、キリムと長く付き合う楽しみの一つです。
5. 床敷きだけではない、キリムの使い方
軽くて畳める平織りは、移動を重ねる遊牧の暮らしにとって理想の布でした。そのためキリムの技法は、床敷きにとどまらず、暮らしのあらゆる道具に生かされてきました。
- テントの床や壁を彩る敷物・掛け物
- 「ホルジン」と呼ばれる、荷物を運ぶ二連式の鞍袋
- 塩や小麦粉を運ぶ袋、寝具をしまう袋
- 空間をゆるやかに仕切る間仕切り
こうした道具の一つひとつに、織り手の技術とその土地の美意識が注ぎ込まれてきました。キリムが単なる敷物ではなく「暮らしの織物」と呼ばれるのは、このためです。
現代の住まいでの楽しみ方
現代の住まいでも、キリムの出番は床の上だけではありません。ソファ前やベッドサイドの敷物として、壁を飾るタペストリーとして、ベンチや椅子に掛ける一枚として、さまざまに活躍します。毛足がなく軽やかな見た目は、春夏のしつらえ替えにもよく合います。ただし夏専用というわけではなく、羊毛のキリムは通年心地よく使えます。春夏はキリム、秋冬はギャッベなど毛足のある手織り絨毯、と季節で敷き替えるのも楽しい選択です。
6. キリムを暮らしに迎えるときのポイント
キリム選びの出発点も、ほかの手織り絨毯と同じです。その色と文様を、長く好きでいられるかどうか。そのうえで、暮らしとの相性を合わせておくと、安心して迎えられます。
- サイズは幅をもって考える ― 手織りのキリムは一枚ずつ寸法が少し異なります。「この範囲に収まれば良い」と考えると、出会える色柄の選択肢が広がります
- フローリングには滑り止めを ― 軽やかなキリムは床の上で動きやすいことがあるため、滑り止めの下敷きと組み合わせると安心です
7. キリムのお手入れと保管
キリムのお手入れの基本は、「汚れをためない・日差しを避ける・こすらない」の3つです。
- 掃除機は弱めの吸引力でゆっくりと。房や糸の浮きを巻き込まないようにかけます
- ときどき向きを変えると、日焼けや摩耗が一か所に偏りません
- 直射日光と湿気は、色あせや傷みのもと。窓辺に敷くときは日差しの当たり方に少し気を配ります
- 飲み物をこぼしたら、こすらずに、乾いた清潔な布をそっと当てて吸い取ります
- 長期の保管は、畳まずにゆったり巻いて、乾燥した場所へ。折り目は傷みの原因になります
全体の洗浄は、染料や素材との相性を見きわめる必要があるため、絨毯を扱う専門クリーニングにお任せいただくのが安心です。
8. よくある質問
キリムも手織り絨毯なのですか?
はい、キリムも手織り絨毯の一種です。手織り絨毯には、毛足のあるパイル絨毯と、毛足を作らない平織りがあり、キリムは平織りの代表格です。イランで織られたキリムはペルシャのキリム、アフガニスタンで織られたキリムはアフガニスタンのキリムとなります。
表と裏、どちらでも使えますか?
綴織のキリムは表裏の文様がよく似ており、両面を楽しめる作品が多くあります。ただし、房や端の仕上げによって表が決まっているものもあります。
文様の間にある小さな隙間は、破れですか?
短く規則的な隙間は、スリット織りという技法から生まれる織りの構造で、破れではありません。くっきりした幾何学文様の輪郭は、むしろこの構造の恵みです。
キリムは夏だけのものですか?
いいえ、通年お使いいただけます。毛足がなく見た目が軽やかなため春夏に人気ですが、羊毛のキリムは冬も心地よく使えます。
自宅で水洗いできますか?
日常のお手入れは、弱めの掃除機と、こぼした際の拭き取りで十分です。全体の水洗いは色移りや縮みにつながることがあるため、専門クリーニングにご相談いただくのが安心です。
9. まとめ ― 軽やかで、奥の深い織物
- キリムは、毛足を作らない平織りの手織り絨毯
- 「キリムか、手織り絨毯か」ではなく、キリムも手織り絨毯の一種 ― イランにもアフガニスタンにもキリムがある
- 夏専用ではなく、通年楽しめる
- お手入れは「汚れをためない・日差しを避ける・こすらない」
キリムの魅力は、軽やかさの奥にある、織り手の手仕事と暮らしの歴史です。経糸と緯糸だけで面と文様を描き切る技術、遊牧の道具として磨かれた合理性、土地ごとの色彩感覚。一枚のキリムには、そのすべてが織り込まれています。心惹かれる一枚との出会いを、ゆっくり楽しんでください。
SATHI RUGSでは、イランやアフガニスタンの手織りのキリム、キリムギャッベ、ギャッベを、横浜元町の店舗とオンラインストアでご紹介しています。
軽やかな一枚との出会いを、どうぞゆっくりお楽しみください。