
カシャーン
種類:ペルシャ絨毯
場所:イラン中部、テヘランの南(旧ペルシャ)
ノット密度:1平方メートルあたり100,000 - 400,000ノット
特徴:中央の大きなメダリオンと四隅のコーナーデザインが特徴的。
素材:主に高品質の羊毛、一部に絹が使われることもある
イラン中央部イスファハーン州に位置するカシャーンは、歴史的に絹織物や陶器など様々な手工芸が盛んな「美しいタイルの町」として名高く、18世紀初頭には王室御用達の絨毯産地としても繁栄しました 。
カシャーン産の絨毯の伝統的なデザインとして代表的なのは、中央に大きなメダリオンを配し、四隅にそのメダリオンの1/4ずつを置いた「メダリオン・コーナー(ラチャク・トランジ)」と呼ばれる構図です。


カシャーンの職人たちは伝統を重んじる傾向が強く、他の産地のように大胆に新しいデザインへ移行することはあまり見られません。実際、斬新な図柄や海外の嗜好に合わせたデザインはほとんど作られておらず、昔ながらの色使いや構図が今なお継続して用いられています。
カシャーン産のペルシャ絨毯は、そうした伝統的な様式美を守り抜いていることが最大の特徴です。そのため、日本でも「古典柄のペルシャ絨毯」といえばカシャーンを思い浮かべる方が多く、伝統に裏打ちされた確かな品質とデザイン性により、根強い人気を誇っています。
カシャーンの地理と歴史
カシャーンはイラン中央部、テヘランとイスファハーンのほぼ中間に位置するオアシス都市です。周囲を砂漠に囲まれながらもシルクロードの交易拠点として発展し、特にタイル工芸や絹織物で培った高度な技術力が絨毯製作にも活かされてきました。その歴史は古く、16~17世紀のサファヴィー朝時代には数多くの名品絨毯が織られ、「カシャーンから来た職人」という言葉が最大級の賛辞として用いられたという記録もあります。
事実、ヴィクトリア&アルバート博物館に所蔵されている世界的に有名なアルデビル絨毯も、このカシャーンで16世紀に織られたと伝えられるほどです。
写真は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館を訪れた際に撮影したものです。
18世紀初頭になるとカシャーンは王室御用達の工房が置かれるほど隆盛を極めましたが、その後の政情変化により一時絨毯産業は衰退します。しかし19世紀末から20世紀初頭にかけて再び織物産業が復興し、特にハッジ・モッタシャン(モフタシャム)といった著名なマスター織工による工房が極上品質の絨毯を生み出したことで知られます。
こうした歴史と文化的背景から、カシャーンの絨毯織りの技術は2010年にユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にもその価値が認められています。
デザインの特徴
デザイン面の魅力もカシャーン絨毯が高く評価される理由の一つです。典型的なカシャーン絨毯は、前述のように中央のメダリオンと隅のコーナーモチーフによる対称構図(メダリオン・コーナー)、または全面に広がる唐草・花模様の構図(アフシャーン)をとります。いずれの場合も、フィールド(地)の部分には細やかな花柄や植物文様が織り込まれており、その緻密さは「所狭しと花々が咲き乱れる百花繚乱」と表現されるほどです。
特に花のモチーフはカシャーン絨毯を語る上で欠かせません。バラをはじめとする花卉文様や、ペイズリー(松毬)柄、唐草(アラベスク)模様、蓮の花をしたメダリオンなど、様々な植物がデザインに組み込まれています。
色使いについては、伝統的に深い赤や濃紺、アイボリー(生成り)やベージュといった落ち着いた色調が多用されます。
カシャーン絨毯の代表的な配色パターンとしては、
①レッド×クリーム/アイボリー×ダークブルーの組み合わせ
②ベージュ/クリーム×ライトブルー×グレーのソフトな組み合わせ
③ブラック/ネイビー×ブラウン×イエロー系の組み合わせ
の三系統に大別できるとも言われます。
いずれのパターンにおいても、多彩なアクセントカラーや濃淡のコントラストが巧みに織り交ぜられ、それぞれの絨毯が唯一無二の芸術作品となるよう仕上げられています。
総じて、カシャーン産ペルシャ絨毯のデザインは「典型的なペルシャ絨毯らしい華やかな意匠と調和の取れた色彩」と評されます。派手すぎず品があり、それでいて見る者を惹きつける存在感を持つ——まさにエレガンスな絨毯と言えるでしょう。
そのタイムレスなデザインは流行に左右されることなく、和室・洋室を問わず様々なインテリアに調和します。伝統を感じさせつつも古臭さを感じさせない普遍的な美しさこそ、カシャーン絨毯のデザインの真髄です。

フィン庭園
