
シーラーズ
種類:ペルシャ絨毯(遊牧民による部族絨毯)
場所:イラン南西部、ファールス州シーラーズとその周辺(ザグロス山脈地帯)
ノット密度:1平方メートルあたり80,000 - 160,000ノット
特徴:カシュガイ族などの遊牧民が織る素朴で丈夫な絨毯。幾何学模様や動物モチーフなど。
素材:高品質ウール(草木染め使用も多い)
シーラーズはイラン南西部・ファールス州の州都で、ペルシャ絨毯の重要な産地のひとつです。特に周辺に暮らすカシュガイ族やルリ族などの遊牧民たちが織る部族絨毯(トライバルラグ)の集散地として知られています。
ファールス州はペルシャ(現在のイラン)という国名の由来となった場所でもあります。
古代より文学と芸術の都として栄えたシーラーズは、詩人ハーフェズやサアディーを生んだ街としても有名です。また、古代ペルシャの首都ペルセポリスにも近く、文化と交易の中心地として多様な手工芸が発展しました。
シーラーズ周辺にはカシュガイ族やルリ族といった遊牧民が多く暮らしており、自給自足の生活の中で絨毯を織る伝統が根付いています。
その代表的な手工芸品が「ギャッベ(Gabbeh)」です。
産地と織り手
シーラーズで織られる絨毯の多くは、周辺の村や遊牧民の手によって織られています。
この地域はザグロス山脈の麓に広がり、多くの遊牧民が季節ごとに移動する「移牧生活」を営んでいます。彼らはテント内で使用する自家用の絨毯を、実用性を重視して手織りしてきました。
代表的な部族は以下の通りです:
・カシュガイ族(カシュカイ)
・ ルリ族
・ハムセ連合(例:バッセリ族)
・バクティアリ族、アフシャール族(近隣部族)
・ヤラメ族
ノット密度
部族絨毯(トライバルラグ)は、都市部の工房絨毯よりもノット密度がやや粗めで、1㎡あたり約9万~18万ノット程度が一般的です。
これは移動生活に適した実用性重視の設計によるものです。遊牧民が自家用として使うために、太いウール糸でしっかりと結び目を作る手法が用いられています。
そのため摩耗に強く、日常使いに適した丈夫さを備えています。
ノット密度が低めとはいえ品質が低いわけではなく、むしろ実用性を重視した構造により、日常生活にしっかりと耐える高い耐久性が特徴です。
素材
素材は主に地元産の上質な羊毛(ウール)で織られます。特にザグロス山地で育つ羊は脂分(ラノリン)を豊富に含み、しっとりとした光沢と高い耐久性が特徴です。
染色には古来より草木染め(植物染料)が用いられてきました。例えば赤系統の色には茜(マダー)から抽出した染料、青系統には藍、黄色にはザクロの皮やウコンなど、身近な植物資源から取れる染料が使われます。天然染料で染められたウールは時間とともに落ち着いた色合いに経年変化し、美しいツヤ(光沢)を帯びるのも特徴です。
近年では化学染料を用いる絨毯も増えましたが、シーラーズ産の伝統的な絨毯作りでは今でも草木染めが重視される傾向があります
文化的価値
シーラーズは、古代より文学と芸術の中心地として知られ、多くの文化人や職人が育まれた土地です。シルクロード南路に位置していたことから、交易の要衝としても重要でした。
2010年には、「ファールス地方の絨毯織りの伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
これは、何世紀にもわたって受け継がれてきた遊牧民の技術と美意識、世界的に評価された証です。
現在では、シーラーズ産の絨毯は芸術性と実用性を兼ね備えた「使えるアート」として、世界中の人々に愛されている絨毯です。

ナスィール・アルムルク・モスク
